朦朧とする意識の中で、焦ったように駆け寄る足音が聞こえてきた。

「未知! 大丈夫っ?」

酷く心配した声が近づいてくる。

この声は、り……く……。

いつまでも玄関に現れない私を待ちわびたのか、陸が駆け寄り蹲る私の傍へとしゃがみこむ。

「大丈夫っ?」

心配するその声に、苦しくて返事が出来ない。

「未知っ」

まるで自分の方が苦しいみたいに、陸の悲痛な声がふりかかる。

「みちっ」

二度目の呼びかけに、何とか顔を上げた。

「顔色……悪い。ねぇっ、どうしたのっ?」

具合の悪さが移ってしまったように、陸の顔は蒼白だった。
心配そうな瞳が覗き込んでくる。

「平気……。少ししたら、多分……治るから……」

ようやくそれだけ口にして、また膝に顔をうずめた。
陸は、どうしていいのか分らず、ただ私の肩に手を置きさする様にしている。

ゴメンね、陸。
大丈夫だから。
これは、力のせいなの。
私のせいなの。
心配かけて、ごめんね。

伝わるはずなどないのだけれど、私は心の中で訴えかけ、声に出せない気持ちを心の中で何度も言った。

陸は、肩を優しくさすり傍にいてくれた。
しばらくそうしていると、心と体が段々と落ち着きを取り戻し始めた。
吐き気も徐々に引き、呼吸も巧く出来るようになる。

それから更に数分。
やっと普段通りに、落ち着くことができるようになった。
私は埋めていた顔を上げ、心配している陸へ笑顔を見せる。

「ゴメン、陸。もう、大丈夫だから」

その言葉に、さすっていた手を止めると、代わりに右手が差し出された。
その手をとり、立ち上がる。

「本当に大丈夫?」

まだ心配そうな瞳が、私の顔を覗き込んでいる。

「うん。平気、行こう」
「……うん」

すっかり落ち着いた私は、心配顔の陸を促し、学校を後にした――――。