―――― 苦痛 ――――




教室から玄関のある一階までの道程が、やけに遠く感じられた。
たった三階分のその距離が、何十階にも思えて呼吸が苦しい。
ドクドクと動悸がどんどん激しくなっていき、血の気までが引いていく。

何……。
この感じ。
苦しい……。

息が乱れ、巧く呼吸が出来なくなっていく。

おかしい……。
どうして……。

はぁ、はぁと荒い息を吐き、ふらふらと一階の廊下に何とか辿り着いた。
けれど、そこまでで足は止まり、黒谷が居る階上を見上げると眩暈に襲われた。

憎悪……邪気……。

押し寄せる黒谷の念。

まさか、力をぶつけられた?
それとも、黒谷によって力をこじ開けられた?

痣を見つけたことに動揺して、あの時の自分の状態が思い出せない。
また、自分自身の力を解放していたのかもしれない。
なんにしても、この気分の悪さは、力のせいでしかない。
私の力に黒谷の抱えた感情が、激しいほどに反応を示している。

胃の中が、グチャグチャと無理やりかき混ぜられたかのような気持ちの悪さ。
襲う眩暈と吐き気。

階段を降りて直ぐの壁に寄りかかり、ズルズルとそのまましゃがみこむ。
膝に顔をうずめ、とにかくこの気持ちの悪さに耐えるしかなかった。

苦しさに声が漏れる。
呼吸は、巧く出来ない。
はぁっ、はぁっと高熱でもあるかのようにしか息ができない。

助けて……。
たすけて……。

具合の悪さに、気がつけば心の中で何度も助けを呼んでいた。

誰に聞こえるはずもないのに――――。