どうしちゃったんだろう?

しばし、泉の顔を見てから考える。

思い当たる事といえば、あれしかなかった。
告白の返事を曖昧にしたままでいるから、その事でも考えているのかもしれない……。

泉に路上で言われた言葉を思い出し、少しだけ私の心拍数が上がる。
その心拍を数えながら、隣にいる泉へ視線をやったあと、肩へと移した。
肩の痣は、今は制服に包まれていて見ることができない。

泉の痣は、力あるものの印にとても似ている……。

祖母は、力ある者同士が交わってはいけない、と御伽噺を聞かせてくれていた。
あの痣は、たまたま似ているものに過ぎないのかもしれない。
泉は、ただの一般人なのかもしれない。

このくらいの深さなら、と屋上で思った気持ちや、朝に感じとってしまった心を揺さぶる切ない想い。
人に好かれることが嬉しくないといったら嘘になる。
疎まれるより好かれる方が、断然いいに決まっている。

けれど、御伽噺が頭をもたげる。

もしも、少しでもその可能性があるのなら、泉は避けなければいけない存在……。
これ以上、親しくするべきじゃない。
断るなら早いほうがいい。
傷が浅くて済むうちに、はっきりと断ってしまったほうがいい。

そう思うのに、泉の顔を見てしまうと、その言葉をなかなか口にできない……。

泉の傷つく顔を想像してしまい、言葉が喉元で引き返してしまうんだ。

私が答えを躊躇っていると、まるで自分に言い聞かせるように泉がつぶやいた。

「姉弟 ―――― なんだよな? アイツは」
「え? あ、……うん」

当たり前の質問に頷き、喉元で引き返した答えは消えてなくなった。

泉は、つぶやきを漏らした口元をしっかりと結び、ジッと私を見ている。
教室の方からは、陸の名前を嬉しそうに叫ぶ女子の声が声高く聞こえてきていた。

少しすると、泉は結んだ唇を開き、躊躇うように話し出した。

「でもさ。二人は、ち――――…」

泉の発した言葉を、学校のベルが遮った。

何を言おうとしたのか。
泉が何を私に聞きたかったのか。

その台詞が届くのは、もうしばらくしてからだった――――。