校門を抜け中に入ると、体育の杉崎が相変わらず元気に生徒たちと挨拶を交わしている。

「おっ、おはよう。惣領」
「おはようございます」

学校モードの自分に切り替え、いつもどおり澄ました顔で挨拶をした。
杉崎は、隣に居る陸へも同じように声を掛けた。

「おはよう、惣領」
「はようございます」

ペコリと気のない挨拶をする陸。
けれど、少しの躊躇いもなく二人の間で交わされる挨拶に、私は疑問を感じた。

「杉崎の事、知ってるの?」

玄関へ向かいながら訊ねてみた。

「この前、職員室に挨拶に行ったから」
「そうなんだ」

私の知らないところで、色々と準備が進んでいたわけね。

こういう瞬間に、やっぱり置いてけぼりにされていた寂しさをちょっぴり感じてしまう。

玄関に着くと、一番端にある来客用の下駄箱を指さし陸が歩いて行く。

「俺、今日はあっち」

そっか。
まだクラスが決まってないから、下駄箱も決まってないんだ。

靴を履き替えて来客用の下駄箱へ視線をやると、陸がこっちへ向かってくる。

「取りあえず職員室来いって言われてるから」
「うん」

私の返事に職員室へ向かおうとしたところで直ぐに振り返る。

「あっ、そうだ」
「何?」

言い忘れてたことがあったと、人差し指で鼻を触り照れた顔をしている。

なんだろう?

「俺、あの家も。新しい家族も好きだよ」

それだけ言って、真新しい上履きをキュッキュッと鳴らし遠ざかって行く。

クールでも素っ気無くもない、気遣いのできる温かな心を持った陸。
照れながらもちゃんと自分の気持ちを伝えてくれた事に、胸の奥が熱くなった。