「ねぇ、これどこに片付ける?」

ダンボールの中からCDを手に取り彼に訊いた。

「それは、……あっちの棚」

「うん」以外の台詞がやっと聞けた。

言われるままに棚へと詰め込む。
うん。以外の言葉を彼から引き出そうと、調子に乗ってまるでゲームみたいに次々訊ねてみる。

「ねぇ。これは?」
「それもCDのところでいい」

短い会話のやり取りは、なんとなく、まだぎこちない。
でも、これからは姉弟になるんだから、歩み寄らなきゃ。

「ねぇ、これはここでいいの?」

たくさんの雑誌を見せて本棚を指差すと、何度目かの問いに、はぁ~…と溜息をつかれてしまった。

え……、なにその深い溜息は。
私、何かした?
むしろ、三日前から君のために相当頑張ってるつもりだけど。

私の心情などわかる筈もなく、彼は私を切れ長の目で捉える。

「あのさ。俺、陸ね」
「え?」

荷物とも引越しとも全く関係のないその言葉を直ぐに理解できなくて、私は呆けた顔になってしまった。

「だから。俺の名前は、陸。ねぇって名前じゃないから」

少し幼さの残る不服そうな顔を向けてきた。

「あ……ぁあ」

そういうこと。
ねぇって呼ぶのが気に入らなかったんだ。
了解。
陸ね。

突然の自己主張に戸惑いながらも、私はそれを受け入れる。