「惣領は、毒舌好きか。覚えとこ」

そんなことを言いながら、泉はまだ笑っている。
私もつられて、また少しの笑みが漏れてしまった。

「なんだ。楽しそうに笑えるんじゃん」
「え?」
「そういう顔、好き」

私の顔を見つめて、いきなりの告白。
笑いに崩れた表情ではなく、真剣な顔が真っ直ぐ私を見つめている。

「何言ってんの?!」

さっきまで一緒に浮かべていた笑顔を引っ込め、私は冷めた調子で言い返した。

「あれ? 照れてる?」

真剣だった顔を、泉はまたクシャリと崩した。
その言葉に私は顔をしかめ、子供みたいにからかってくる泉を置いて、また一人ズンズンと歩き出す。

もう、何?
泉って、どんな脳みそしてんのよ。
言ってる事についていけない。
やっぱり、黒谷に負けないくらい、泉も面倒な奴だわ。
一緒に居るとペースが乱れて、ほんとに迷惑。

私は、怒ったようにどんどん先を行く。
諦めたのか、気がつけば泉はもう後をついて来ていなかった。

泉が傍に来ないことが判り、私は安堵して歩く速度を緩めた。
すると。

「俺。そんなに面倒な奴じゃないよっ」

ほっとして気を緩めた私の背中に、泉が大声で叫んできた。
驚きに振り向くと、泉は楽しそうに白い歯を見せて笑っている。

周囲の事も省みないその大声と、またも心の中を読まれた事に私はムッとしてしまう。
一人楽しそうな泉をキッと睨むと、私の怒りなど全く構うことのない態度だ。

「惣領っ。また明日なーっ」

さっきと同じように声を張り上げ、手まで振っている始末。
怒りを通り越し、やっぱり泉に対して呆れてしまう私だった。

その後、呆れが諦めに変わると。
泉の言葉を思い出し、心の中を覗かれている気がして少しの疑念を抱いた。
授業中に考えた事への好奇心が、またも少し顔を出す。

まさか――――泉も私と同じ……。

そこまで考えて、あの泉が? そんなわけない。と自分自身を鼻白む。

考えすぎだよ私。

前に向き直り、歩を進め、並木道をのんびりと歩いて行く。
心地よい春の風になびく髪を右手で押さえながら空を仰いでいると、黒谷に対する泉の毒舌な台詞が思い出されて、また少し笑いが漏れた――――。