あの日、あの時。
この世の全ての記憶から消えてしまったはずの君。
俺の腕の中で霞んで消えてしまった君。
愛していると言ってくれた君。
温もりを感じあい、離れられるはずなどないと抱きしめあった君。
「み……ち――――」
俺の視界が波打ち揺れる。
起伏を失った感情が、君の姿に反応していく。
瞳に溢れだすその揺れが君の姿をぼやけさせ、また君が消えしまうんじゃないかと恐怖に怯えた。
「未知っ」
二度と愛した人を手放したくない。
俺は手を伸ばし、身体を引き寄せしっかりと抱きしめる。
「陸――――…」
耳元で囁かれた声に、もう心は抑えられないほどに君を求めていた。
伝わる未知の感触と温もり。
ちゃんと今この腕の中に存在している。
愛しい君の香りに包まれる。
「未知――――愛してる」
二度と独りにしないで……。
抱きしめあった腕は、しっかりと互いを感じあっている。
この先、引き裂かれる事などないと確信しあう。
俺たち二人の姿を、その存在を隠すように夜の闇に桜が舞った。
はらはらと舞い、霞む影。
ゆらゆら揺れる視界。
夜に紛れるように誘(いざな)われる二人。
そうして俺たちは、この夜の闇にとけて消えた――――――――。



