救ってあげたい気持ちを押し込め、俺は立ち上がる。
後ろ髪引かれる感情を振り切り、傷ついたその仔猫に背を向けて俯きながら一歩踏み出した時だった。
「ねぇ、その仔。助けてあげないの?」
不意に降って来た声に、心臓が跳ねた。
まさか――――。
一瞬にして思い描いた人物像がある。
自分の足元を見たまま、傷ついた仔猫以上に俺の心が怯える。
だって、もし違っていたら。
期待していたのを裏切られたら。
もう、独りじゃ立っていられない。
独りじゃ生きていけない……。
けれど、君が俺を呼ぶ ねぇ。って言葉。
君が俺を一番初めに呼んだ言葉と同じ。
俯く俺の視界に入る足先が、ゆっくりと近づいてくるほどに、心は否が応にも反応していった。
ドクンドクンと心音が高鳴っていく。
少しずつ俺の傍に来る人物からは、愛しい人の香りがした。
それは、あの日強く強く抱きしめた人の香り。
堪えられない想いに、俺はとうとう顔を上げた――――。



