途端、波打つように周囲のもの全てが歪み始めた。
ゆらゆらと船に揺られるように、その波に自分自身の体も揺れていくよう。

脳は、ふわりふわりと揺らめき。
体は、実態を持たぬよう霧となり空気となり、周囲に溶け込み感覚が消えていく。
目の前に見えていた現実のものが、その揺れに呑まれていくようにして消えていく。
体はいつしか浮遊感の中、真っ暗なエアポケットにでもポツリ投げ出されてしまったようになる。

緩慢になっていく思考……。

これって――――…。

もしかして……。

薄れ行く意識の中で、感じたもの。


―――― 過去への誘(いざな)い……


そう感じた瞬間、ドンッと投げ出されたように現実へと戻った。

ダルさを感じていた体が、更に酷く消耗している。
私は、あまりのダルさに、はぁ、はぁ。と肩で息をし畳に手をついた。

今まで感じたことの無い、体への負担に耐える。
体を支える腕がガクガクと震え、車酔いにも似た胃の気持ち悪さに脂汗が浮いた。

しばらくそうやって俯き、震える腕で体を支えていた。
そうして、少しずつその状態から回復していくように、視界がはっきりとしてくる。

体を支える手の下には、畳と祖母の写真立てがあった。
そこから顔を上げて目に入るのは、見覚えのある仏間の風景だった。

けれど、何かが違う。

襖も仏壇も同じ……。

たけど、その仏壇から祖母の遺影が消えている。

それだけじゃない。
夜だったはずの窓の外は、昼間の明るい日差しが差込み、父と二人運び込んだはずの本棚が無い。

キョロキョロと部屋を見回し、ずっと前に見た記憶のこの場所に、やっぱりという意識が強くなる。

そこへ、静かに襖が開いた。