―――― 二人の時間 ――――
土曜日の早朝。
マイカーのセダンに、両親が荷物を詰め込み、ニコニコと笑顔でこの旅行を楽しみに心を弾ませていた。
「運転、気をつけてね」
私は、車に乗り込む父へと声を掛けた。
「うん。わかった」
任せておけ、とでも言うように父はシートベルトを装着する。
「温泉にでも浸かって、のんびりしてきなよ」
助手席に座るお母さんへ、陸が労いの言葉をかけている。
「ありがとう。お土産楽しみにしててね」
「子供じゃないんだし、別にいいよ」
ぞんざいに言ってるけど、浮かべた顔は嬉しそうだ。
エンジンが始動し、二人を乗せた車が動き出す。
遠ざかる車の後ろに手を振り、私たちは見送った。
「二人とも、本当に嬉しそうな顔してたね」
玄関へ向かいながら、後ろをついてくる陸に話し掛ける。
「未知……」
ドアを開け中に入ると、陸の愁いを帯びた声が私を呼んだ。
呼びかけに応えようと振り向きかけた私へ、靴を脱ぐ間も惜しむように陸がうしろから抱きついて来る。
腕が、絡みついてくる。
「り……く……」
「やっと……二人だけになれた」
切なくも愛しい声で、陸が私の耳元に囁きかけてくる。
その声に、私は甘くて溶けてしまいそうになった。
応えるように、前に回る陸の両手に自分の手を沿える。