陸が小さくドアをノックして、私の部屋にやって来た。
ベッドに寝そべり本を読んでいた私は、体を起こす。

「あの二人。嬉しそうだったな」

陸は床に胡坐をかき、小さな丸いテーブルに頬杖をついた。

「陸の方がよっぽど嬉しそうな顔してるよ」

私は、父たちへしたように少しからかってみる。
すると、予想に反して真剣な顔と声が返ってきた。

「うれしいよ」

頬杖をついていた手を下ろし、胡坐の上で両手を組む。
陸の真面目な顔に、私は笑顔を引っ込めた。

「未知は、嬉しくないの? 俺と二人だけになれること」

不安そうな瞳で訊ねられる。

「……嬉しいよ」

応えた声が、少し掠れた。

本当は、もっと明るく幸せな顔で言いたかった。
学校にいる女の子たちのように、黄色い声を上げて嬉しさをあからさまにしたかった。

けど、私たちは普通じゃない。
心の片隅にいつもあるその感情のせいで、なりふり構わず喜ぶ事ができない。

けれど、陸は。
嬉しい。といった私の言葉に満面の笑みを作る。

「よかった」

安堵したように漏らすと立ち上がり、テーブルを回りこんで私の傍へとくる。

「おやすみ」

おでこに優しく唇を当て、部屋を出て行った。

夏休みに入って数日。
血の繋がっていない私たちは、あと数日で禁忌を犯そうとしていた。
義理だと言うことを楯にして、心は浮かれていた。

夏の太陽がそんな私たちを、容赦なく照らしていたというのに――――。