―――― 惑わされる ――――




「――――何してんだよっ!!」

勢いよく開け放たれたドアの音と、降って沸いたような罵声に動きが止まり、私はハッとして目を開けた。

カーテンの直ぐ向こう側に立つ人物は、標的を狙うようにすぅっと切れ長の瞳を細めている。

「何やってんだよっ!!」

突如現れた陸がカーテンを大きく開くと、泉に向かって叫んだ。

その直後、繰り出された拳。
片足を痛めている泉は、避ける間も無いまま、まともに陸の拳を受けてしまった。

ガツンと頬に拳のあたる鈍い音。
ドサリと床に倒れる泉の体。

「いずみっ!!」

目の前の光景に驚き叫ぶ私。
殴られた泉は床に片手をつき、切れた口の端をもう片方で拭う。

「いってぇ……」

拳を握り締めたままの陸を、倒れたままの泉が下から見上げている。

こんな風に、怒りを露にした陸を私は初めて見た。
いつだって冷静で、優しい表情が常で、時々ぶっきらぼうな顔はするけど。
だけど、こんな風に怒るなんて。

怖かった……。

泉を殴った陸が、怖かった。