―――― 愛しすぎて ――――
私がドアの前に立ったままでいると、以前と何も変わらない屈託のない表情をしてみせる。
「入れば?」
少しの笑みを浮かべて、私を中へと促した。
私は、言われるままにドアを後ろ手に閉め、中へと進んだ。
泉は、本来先生が座るはずの椅子に腰掛け、シップを鋏で切っている。
「怪我……したの?」
「うん。今体育で、ちょっと捻った」
左足首を指差し、情けないと苦笑いを浮かべている。
久しぶりに、泉と会話をした。
あの日、泉をぶってしまってから、まともに話すことなんて一度もなかった。
「未知は……、顔色悪いな……」
「うん……」
右側のカーテンで仕切られた奥には、ベッドが三つ並んでいる。
「誰もいないから、どこでも好きな場所にどうぞ」
ベッドへ視線を向けている私へ、少し冗談めかして泉が笑う。
それは、陸が来る以前によく見せていた、目元をクシャリとさせる笑い方だった。
懐かしいその笑顔に、少しだけ私の心が和んだ。
私は、一番手前に入りカーテンを閉めてベッドに腰掛けた。
静かな室内。
時折、泉のクラスなのか。
校庭からなにやら笑うようにはしゃぐ声たちが聞こえてくる。
あとは、シップのセロファンを剥がす音や、それを止めるためのテープを切る音。
鋏を机に置く音が聞こえてくるだけ。
泉は、何も言わずそこにいる。
今、彼は何を思っているんだろう。
あの日、泉をぶってしまった私へ、どんな感情を抱いているんだろう。
陸とのことを、やっぱり責めているのだろうか……。