―――― 久しぶりの顔 ――――





夏休みも間近の授業中。
日増しに弱って行く私の身体は、朝からの頭痛と吐き気にやられていた。

心配顔の陸には、何とか大丈夫と笑顔を見せるようにしていたけれど、お昼を前にしたその時間。
限界に近い気分の悪さに、耐えることができなくなってしまった。

先生が淡々と教鞭をふるう中、私は椅子を引き、机に手を突き立ち上がる。

「……先生。気分が悪いので、保健室に行ってきます……」

見た目にも明らかな顔色の悪さに、授業を続けていた先生が心配そうに気遣う。

「一人で行けるか?」

コクリと頷くと、隣から陸が声を掛けてくる。

「……みち」

陸は私を心配して、保健室へと付き添うために席を立とうとする。
その好意を目で制して、私は一人で教室を出た。

授業中の静かな廊下を歩いて行くと、幾分か体が楽になっていった。
多分、人が傍に居ないせいだと思う。

教室や人ごみの中では、沢山の感情が犇めき合い、力が勝手に反応してしまう。
最近は、物に触れなくてもその感情に呑み込まれることが度々あった。

はっきりと言葉になって聞こえるわけではないけれど。
色んな念が無理やり混ぜ込んだ材料のように、グチャグチャになって気分を悪くするんだ。

誰もいない廊下を、私は俯き歩いていく。
前に繰り出される自分の足先をただ見つめたまま、保健室へと向かい、小さくノックしてドアを開けた。

ドアは、カラカラと軽い音を立てる。
その向こうには、見知った人がいた。

「未知――――…」

中にいたのは、保健の先生ではなく、久しぶりに口をきいた人物だった―――――。