頬に、なにか温かいものが触れる。
それはずっとずっと、幼い時に感じたものと似ていた。

あぁ、お母さんの手だ……。

顔も憶えていない母。
記憶に残っているのは、頬に触れる手の感触と温もり。

汗ばむ額を、タオルが優しく拭ってくれている。
乱れた髪をなでるように、梳くように手が触れる。
見守るような心が、私を優しく包み込む。

お母さん、戻ってきてくれたの……?

記憶の中にいる母親に逢いたくて、私はゆっくりと瞼を持ち上げた。

白い天井の室内。
身体を包む、柔らかな布団。
心配そうな顔が、私を見つめている。

「り……く……」
「……未知。よかった」

安堵と共に、陸が言葉を漏らす。

見覚えのあるこの場所は、どうやら学校の保健室みたいだ。
私が横になっているのは、そこのベッド。
そばには、今にも泣き出しそうな陸の顔がある。

母の姿も手の温もりも、全てが幻で、頬に触れていたのは陸の大きな手だった。

心配かけて。

「……ごめんね……」

陸の前で倒れてしまった二度目の今日。
きっと、私の「大丈夫」は、もう信用してもらえないだろう。

いつまでも、私の頭を優しくなでつける陸の悲しそうな瞳。
私の代わりというように、陸の顔色は悪い。

あの時と一緒だ。
まるで陸の方が、よっぽど具合が悪いんじゃないかと思ってしまう。