―――― 姉弟の境界線 ――――




「みちっ! みちーっ!!」

朦朧とする意識の中で聞こえてくる、悲痛な叫び声。
誰かが私を必死に呼んでいる。

上半身を抱えられているのか、硬いコンクリートの感触がしない。
抱えられた腕の中、何度も呼ぶ私の名前。
けれど、重い瞼を少しも持ち上げられない。
呼吸も苦しいままで、声も出せない。
身体は、高熱に侵されたように震え汗を流す。

「お前……未知になにしたんだよっ!!」

霞みがかった靄のような脳内。
その、霧の向こうから聞こえてくる怒声が耳に届く。

誰に対して怒りを露にしているのか、考えることが出来なかった。
ただ、虚ろなまま抱きかかえられ、苦しさに間隔の短い呼吸を繰り返すだけ。

私を抱える相手の声は耳に届くのに、罵声を浴びせられた相手の声は聞こえてこない。

応えられないのか。
応えようとしていないのか。

それとも私の耳に届いていないだけか……。

「二度と未知に近づくなっ!」

低く怒りのこもった声が、相手を脅かす。
その後、抱えられる私の傍を、誰かが通り過ぎたように空気が揺れた。

固く乾いた扉の閉まる音と共に、気配が一つ消える。

残されたのは、私と。
私を抱きしめる、誰か。

その腕の中で、苦しいながらも安心し、また意識は遠くなる。

「未知……」

悲しそうに零れた私の名前。
強く抱きしめられる温かい腕の感触に、また意識が途絶えた――――。