―――― 気の緩み ――――





「そんなのどうでもいい事よっ。それより、惣領さん。泉君と仲良くしているだけじゃ、飽き足らないわけっ? 随分と気が多いじゃない」

力ある者じゃないことを知り、ほっとしていたところへ罵声を浴びる。
嫉妬の念を膨らませた黒谷が、私へとそれを向けてくる。

なのに、一般人の妬みと私は安易に構えすぎていた。
人の心の奥底に眠る嫉妬心が、どれほどの力を持っているのか。
私は、甘く見すぎていたんだ。

黒谷は、私を睨みつけ叫ぶようにして声を荒げる。

「私は、ずっと泉君のことが好きだったの。一年の頃から泉君だけを見てきたの。なのに、チョロチョロと回りをうろついて。なんなのよ、いったい!! 顔が良くて頭が良ければ何でも許されるわけっ?  その上、血が繋がっていないのをいい事に、陸君とイチャイチャしてっ。うざいのよっ!!」

黒谷の言い分は、冷静にならなくとも解るほどの言いがかりだった。
泉へと気持ちを伝えられず、勝手に一人悶々とししている事を怒りに変え、私へとぶつけているに過ぎない。

陸との事だって、勘違いでしかない……。

けれど、人を想う心は、時としてその人を鬼と化する。
嫉妬を愛憎に変え。
憎しみと恨みを肥大させていく。
近づくものを傷つけようと、容赦なく牙を剥く。

黒谷は、泉への愛をどす黒い感情に変えてしまった。
その憎念が、油断していた私を取り囲む。

息苦しいほどの濃く重い固まりが、身体中へと圧し掛かる。
黒谷の鋭い眼差し。
それ自体が武器にでもなったように、私の身体を貫いていく。
心に抱える泉への想いを、私への憎しみに変え、目の前にいる標的に容赦なくぶつけてくる。