―――― 対決 ――――






泉の言葉に惑わされている自分が、どうしようもなく嫌だった……。

血の繋がりなんて関係ない、とどうして言い切れなかったのか。
なんて言われたって、陸は弟なんだって。
家族なんだって訴えればいいものを。
あんな風に陸から目を逸らしてしまうなんて……。

背を丸め、肩を落とす自分のふがいなさに深い溜息が漏れる。

授業道具を詰め込んだ鞄を机の上に置き、溜息まじりに一人で室を出た。
黒谷の姿が既にないところを見れば、彼女はもう屋上へと向かっているのかもしれない。

生徒の数が格段に減った放課後の校舎内。
特に屋上へ行く人など居るはずもなく、廊下は静まり返っていた。

廊下を行き、屋上へ続く階段を一段登るごとに、憎念は濃くなっていった。
見えるはずのない泥のようなねっとりとした念が、身体中に纏わりついてくる。

かたい扉の前。
一度大きく深呼吸をし、取っ手に手をかけた。
途端、ビリッと電気でも走ったような衝撃を受け、思わず驚いて手を放す。

取っ手に黒谷の念が残っていたのだろう。
痺れる手をギュッと握り、取っ手を少しの間睨みつけ、静電気でも確認するようにもう一度そっと触れてみる。
今度はなんともないと判り、ゆっくりと捻り中に踏み込んだ。

泉に呼ばれて、以前一度来た屋上に出る。
あの時は、きれいな青空の天井だった。

だけど、二度目の今。
空は、梅雨を前にした重い雲が覆っている。
それはまるで、憎念をため込んででもいるみたいだ。

フェンスを背に立つ黒谷の姿。
いつもの仲間を引き連れることなく、黒谷は一人でそこにいた。
肩幅に両足を開き、戸口に立つ私を真っ直ぐ見ている。

淀んだ空気が辺りを支配している中、互いに言葉もないまま八メートルほどの距離。

力の解放は、まだしない。

だけど、それでも感じられる黒谷からの強い念。
それは、誰しもが持つ人の心の醜さによるもの。
力なくとも発することのできる感情だった。
それを感じることができるのは、私が力ある者だから。