―――― 不安と苛立ち ――――





放課後までの残り時間。
私の心は、落ち着き失っていた。

屋上に呼び出すなんて、黒谷はいったいどういうつもりなのだろう?

疑問を抱え、黒谷の席へ首をめぐらした。

授業に集中しているのか、黒谷は私の視線に振り向くこともない。
いや、もしかしたら気付いているのかもしれない。
あえて、気付かないふりをしているだけ……?

黒谷の事は、まだ力ある者と断定はできない。
だから、余計にこちらから下手に力を開放することは出来ない。

屋上でいったい何をしようというのか。
もしも、一般人ならば呼び出した理由など高が知れている。
きっと、ただの嫉妬だろう。
泉や陸と仲良くしていることが気に入らないだけ。
けれど、もし力ある者だった場合。

「―――― ……ち」

そんなことでは、済まないかも知れない……。

「―――― みち…… ――――」

これから起こるであろう出来事に、私は頭を悩ませていた。
放課後の事ばかり考えていて、隣の呼びかけに気付かなかった。

「――――未知?」

隣からする三度目の呼びかけに、ようやく気付いて陸を見た。

「ぼうっとして。大丈夫……?」

眉根を寄せ、心配そうに漏らしている。

そんな陸の方を見てしまってから、私は咄嗟にまた目を逸らしてしまった。
耳の奥では、泉の声がこだまする。


  好きなやつを見ている目だ―――――


頭の中で繰り返される声を、ぎゅっと目を瞑り追い出そうとした。

目を逸らしてしまった私に、陸の顔が曇っていく。
けれど、気にしていないとでも言うように、陸は直に気を取り直していつも通りに接してくる。

「あそこ。テスト出るかもしれないって」

陸は、普段どおりの態度で、黒板に書かれた文字を指差し教えてくれた。

「ありがと……」

陸の方を見ないまま返すお礼の言葉に、小さな溜息が聞こえた気がした。