………あれ?
俺、まだ殴ってねぇぞ?
頭の中が疑問で埋まっている中、ゆっくりと背中を上げる。
すっげぇ痛いけど、そんな事よりも…。
なんと、西川愛梨が俺の目の前に立っていた。
………西川愛梨が、さっきの男をぶん殴ったのだ。
一瞬錯覚かと思ったが、そんなことはないようで。
しっかりとあの男がぶっ飛ぶ様子を見てしまった。
ポカンと呆気にとってしまう。
あの男をぶっ飛ばす力がどこに…。
そう驚いていると、西川愛梨は上から俺を覗きこんで。
「早く立ってっ!」
そう言ってグッと地面についていた手を取って引っ張られた。
こんな時だけど、彼女の手の小ささと冷たさに、少しだけ新鮮さを感じた。
そのまま俺はもう片方の手で立ち上がる。
あの男は、屋上のアスファルトの上で蹲っていた。
西川愛梨はそんな男を無視して、颯爽と歩き始める。
男のことが少しだけ気になるものの、彼女に抵抗せずに従った。
そして手を掴まれたまま、無言で足早に階段を降りていると。
前から女数人がやってきた。
「あ、東くんっ!」
そう声を掛けられたものの、西川愛梨はそのまま無視して横を通り過ぎる。
俺も、目を合わさないように横を通り過ぎた。
「待ってよっ!」
後ろから叫ばれても無視。
「なんで西川さんとっ!?」
しかしそう言われた時。
西川愛梨が立ち止まった。
そのままぶつかりそうになり、咄嗟にブレーキをかける。
そして西川愛梨はクルリと後を振り向いて。


