「高梨」
教室のドアの近くからさっき聞いたはずの声が再び聞こえた。
「ごっごめんなさい」
急いでプリントをわたしの机に移した。
どうしよ……‼︎
教室に入ってきた斎藤くんに、好きな人のリコーダーに口をつけたのがばれたときのように動揺してしまう。
そんなことしたことないし、そもそも状況自体が全然違うけど‼︎
「何で謝ってんの高梨」
強力笑顔とはまた別の笑顔で…というか爆笑してる。慌ててたから笑われたんだよね?
恥ずかしい――…。
「一人?」
「うっうん……湯川くん予定があるみたいで」
「あいつカラオケ行くとか言ってたぞ」
「あぁ……」
やっぱり、何となくは勘づいてたんだけどね。
雑用係の学級委員の仕事なんてやりたがる人いないし。でも任せっきりは酷いよね。
少しでも手伝ってくれれば…。
何て思っても仕方ないか。
溜め息を小さくつくと、いつのまにか斎藤くんもいなくなっていた。