「木下」


自分の口から出した名前に違和感を覚える。

あれ……わたし、この子のこと呼び捨てにしてたかな?


ヒョウ柄の緩い部屋着を着てて、茶色の髪に染めてこんないかにもチャラいような人とは縁が無かったはず…なのに。


学校では大人しい方、だったよね。



けど自然と出てきた名前だから、わたしはそう呼んでいたのだと思う。


記憶は確かじゃないけど、そういえばクラスのムードメーカー的な、中心人物だった気がする。



あれ、おかしい……。

たった三年前のことなのに、こんなにすぐに忘れてしまうもの?



「お久しぶり……だよね?」

わたしが窺うような笑顔で挨拶をすると驚いた顔をした木下……さんは、みるみるとその顔を強張らせてコンビニの袋を握り締めると、わたしから逃げるように走っていった。



何でだろ……?何かわたししたかな?


呆然とその光景を眺めると、わたしはまた前に住んでいたアパートに向かって歩き出した。


わたし、中学校の頃そんな怖がられるような存在だったっけ?


どうしてだろう。

歩く度に、何かを思い出そうとする度に違和感を感じる。