「高梨さん、前を見て。俺の目をしっかり見て。

高梨さんが決めたことなら全部、間違ってないんだから」


「高梨を守ってって尚から頼まれたのに、俺がそんな辛そうな顔させたら、変わったことを後悔させたら、駄目だよな」

「……言われたんだ」

「そう、言われた」


「……」



今のわたしには、その斎藤くんの優しさがやっぱり痛い。


……斎藤くんがわたしに色々なものを残してくれた。それを斎藤くんが遠くに行ってから、沢山感じた。


申し訳ないほどのいっぱいの勇気と、大切なもの。

間違ってはいないのかもしれない。

だって斎藤くんから貰ったものだもん。



「瞬くん。わたし頑張るから……心の中で応援しててくれないかな」



わたしは雲ひとつない寒空を見上げる。

何も知らない瞬くんは不思議そうな顔を一瞬見せたけれど、笑顔でうなづいてくれた。




「ただいまー」


瞬くんと別れて家に帰ると、静けさの中にわたしの声だけが響いた。