ゆっくりと近付くから、少し触れただけでもじわりと熱が伝わった気がした。
徐々に広がる面積。
重なる。重ねる唇。
その形は少しずつ変わっていく。
大事にして、尊重して。苦しくないように鼻からだけでなく口からもお互いの息を吸い合う。
お互いがいないと生きられないそれを確かめ合う行為のように。二人で呼吸を奪い合う。
息が荒く苦しくなって顔を歪ませたわたしを察すると斎藤くんはそっと唇を離して、もう一度やり直した。
「んっ……」
好き。
そんな優しいあなたが好きだよ。
誰かの苦しみに気付いてあげれるあなたが。
誰かに迷惑をかけないようにするあなたが無理に作った笑顔さえも。
胸が痛いけれど。好きだよ。
唇が離れると、前髪が雨に濡れている斎藤くんは少し別人に見えた。
それでも大事な壊れものを見るような目でわたしを見つめるところは変わらない。
「ガチャッ」
家の鍵が開く音がして咄嗟に振り向くとその音の正体はわたしの家のドアで、そこからお母さんが顔を出していた。
どうしよ。みられ……た?
だけど、次の言葉を聞いた瞬間。
そんなことなんてどうでもよくなった。
正確に言うと、そんな感情すら頭から消え去ってしまった。
「春の……かあさ……ん?」

