「――荷物は大体もうまとめてあるから、あと何日かしたら行く。先生にも父さんの方から言ってもらったし」
「うん……」
「帰ろう」
二人で走った道をゆっくりと歩く。
違う世界に見えたここまでの道のりは坂を下りる度に見慣れた現実の世界に戻っていく。
けれど触れた手と手は、来たときと同じようにどちらからともなく、いつの間にか繋がれていた。
「じゃあな」
「ねぇ……一つだけお願いがあるの」
――運命は変えられない。神様は残酷。
こうなるなら最初からわたしたちを出会わせないでよ。
そして、これは運命に逆らった最後の足掻き。
ーー斎藤くんとの関係に名前を付けさせてください。
それぐらいなら、許してくれますか…?神様。
精一杯の一生分の勇気を振り絞って口を開いた。
「斎藤くん。引っ越すまで、少しだけでいい……。
わたしと付き合ってくれませんか?」

