「返しなさい!」
「いや、俺のだし」
「ふざけるな!」
「なんのことだかさっぱり」

瑞希の手を軽々と避けていくその筆箱。
身長という差はとても大きいようで、全く歯が立たない。
教室だけに留まらず、近くの屋上に続く階段まで追いかけるはめになった。

「課題終わらないんだけど!」
「俺の出していいよ」
「それはやめとく!」
「冗談だけどね」
「じゃあ返せ!」

埒が明かなくなり、こちらにはシャープペンが残っていたので、消しゴムくらい借りようと手を伸ばすのを諦める。

「えっ、いらないの?」
「朝から疲れた。もう借りるよ」
「えっ、貸そうか?」
「じゃあそれ返せ」
「……とりあえず待ってよ」

そしてそのまま、また壁ドンをされたわけである。
前回もそうだが、今回も非常に脈拍がない。

「ちょっ、足挟んでこないでよ」
「刺激を足してみようかと」
「こんな刺激はいらない。っていうか誰か来たらどうするの!」

確かに人通りの少ない階段だが、角度によっては下の階から見えてしまいそうである。

「見せつけて、俺のものだと言うことを証明する」
「違うし、やめようか!相原くんやめとう!」
「相原じゃない」

ただでさえ近かった顔が、吐息のかかる距離まで近づいてくる。
顔をよく見れば、本当に整っていると思った。