「分かってくれて嬉しいよ」

そう言って爽やかに笑う彼。なんとか地雷を回避できたと思ったのもつかの間

「じゃあほら、瑞希ちゃんは、どうなの?」

さっきとは比べ物にならないくらいの問いが投げかけられた。

「どう、とは」
「俺についてどう思うかって」

それ以外ないだろうと、心の中で悪態をつく。
しかしこれは、大量質問チャンスである。この期に乗らなければ今後の対策すら立てられない。

「まず名前を」
「相原薫」
「学年」
「1年」
「クラス」
「3組1番」

隣ではなかったことに、小さい悔しさを覚えた。

「もしかして、全然知らない?」
「あ、えっと、自分のクラスでていっぱいで。学年は一応」

とても近いのは相変わらずであり、ここで下手に言い訳しても後が怖い。

「なら、ゆっくり教えていこうかな」

そう言って頬に当たりそうになる手に恐怖し、思わず目を瞑る。

「あ、ごめん」

急いで手を引き戻す。自然に壁ドンは解消され、瑞希は自由の身になった。
それでも、逃げることはせずに確認を取る。

「いえ、いいですけど、帰りたいなーって」
「あ、うん。そうだよね、まだ気持ちの整理ってやつがついてないんだよ。分かるよ、うん。ごめんな。気をつけて帰って」

一気に捲くし立てた彼は、目を伏せたまま手を振った。
今までの威勢はどこへ行ったのだろうと不思議に思いつつも、解放感が上回っている。そのまま手を振り返し、その場を後にした。