海の中、君が私を待っていた




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藍染 里憂 Aizome Riu は、見目麗しい少女だった。


彼女の実家は大富豪の藍染家。藍染は本業を金融関係とし、表向きは医療界でもトップと謳われる樫已 Kasiya 大学病院を経営している。


表でも裏でも、藍染一族がその名を馳せて、一部の組織を牛耳っていると言っても過言ではなかった。


藍染 里憂は、そんな逸脱した一族の待望の女の子として生まれた。長い間、藍染の血縁に女の子が生まれなかったのだが、藍染本家の本妻が里憂を宿した。


本妻、藍染 千里 Aizome Tisato は元々体が丈夫ではなく、里憂を生むのも難しいと宣告されたらしい。けれど千里の強い要望により、母の命と引き換えにして娘は生まれた。


それが、藍染 里憂なのだ。


里憂は、まるで千里の生き写しとまで言われるほど、千里に似ていた。容姿だけでなく、中身も里憂は千里を受け継いだ。


千里の夫であり、里憂の父であり、藍染本家の総帥……藍染 隼人 Hayato は千里を心の底から愛していた。そしてまた、里憂の事を溺愛していた。


里憂は、あまり口数の多い子供ではなかった。決して無口というわけではないが、その場にあった言動を弁えた、聡明な子供だった。