手をのばす

「な、なにしてるの?」

何とかそう声をかけることができた。


「見ての通り、掃除担当。店が忙しくないからさ」

「そう、なんだ」


すると沢渡はゆっくり近づいてきて、私の顔をじっと見るなり、

「どうした?」と言った。

「何が?」

まっすぐに注がれる視線から逃げるようにして、私は少しぶっきらぼうに答えた。


「いや、うん」

あいまいに沢渡が答える。



すこし間を置いて、沢渡がつぶやいた。


「俺さ、これ終わったら今日上がりなんだ。よかったら飯でも食いに行かない?」


思いがけない誘いに、思わず顔を上げた。


ふいに沢渡の視線とぶつかって、胸が大きく鼓動を打った。