心がざらついている。

あの幸せすぎて、他に何もいらない・・・・・・。

そんな感覚はすでに遠いものとなっていた。

沙耶にも何も聞けないまま、ぼんやりとした時間だけが過ぎていく。



ある日、デスクで午後の会議の用意をしていた。

廊下の方が、やけにざわついている。

しばらくしてフロアに飛び込んできた同僚は、血相を変えていた。


「佐々木部長の奥さんが来たよ!」

「え?」

みんな一斉にその同僚を見た。

「なんか・・・様子がおかしいみたい。とりあえず部長がなだめてたけど」

数人が、ちらちら私の方を盗み見している。
視線が痛かった。

「あれじゃないの、不倫騒動。ほら」


こそこそ話す声が聞こえる。

冗談じゃない・・・・・・。


まさか部長の奥さん、私のことを不倫相手だと誤解しているんじゃ・・・・・・。