手をのばす

玄関のチャイムが鳴った。

ドアの向こうに沢渡がいる。

私の好きな人。

息を吐いて沢渡を迎えた。

「遅くなってごめん。おお、いいにおいだね」

玄関で沢渡が靴を脱ぎながら言った。

「おつかれさま、どうぞ上がって」

笑顔でバッグを受け取って部屋に招き入れる。

こうしていると、まるで夫婦みたいなのに。


「すげ!これみんな江崎さんが作ったの?」

テーブルに並んだ料理を見て、沢渡が驚きの声をあげた。

「うん。食べてみて?」

椅子に座らずに沢渡はひょいとからあげをつまんで口に入れた。

すぐに「うまいよ!」と言ったものだから、

「ちゃんと味わってから言ってよー」と笑った。

「いやほんと。うまいよ。江崎さんありがとう」


こんなに楽しく会話を交わしているのに、「江崎さん」という呼び方がとても気になった。


よそよそしくて他人行儀。




由紀子って呼んでいい?

いつか沙耶はそう言った。