「ごくろうさん」

背後から声をかけられて、私はパソコンを打つ手を止めた。

振り返ると、コーヒーを持った佐々木部長が立っていた。


「あ、お疲れさまです」

私は慌てて挨拶をした。

「こんな遅くまで残業かい?そろそろ帰って明日にしたらどうだい?」

「は、はい。そうですね。じゃあもうちょっときりのいいところまで」

戸惑いながらそう答えると

「じゃあこれ差し入れ」

と言ってコーヒーを私の机に置いた。


「あ、あの」

「そろそろ帰るよ。じゃあまた明日」

私が返事をする前に、部長は身を返してフロアを出て行った。

「ありがとうございます!」

声が届くかはわからないけれど、もう姿の見えない部長に向かって言った。


コーヒーのあたたかい湯気とほっとする香りが、優しく鼻をくすぐった。