ハーフタイムの間中、和人の頭の中は月野と英のことでいっぱいだった。
(二人が知り合いだったなんて聞いたことがない。おそらく最近知り合ったはずだ。共通の友達がいるのだろうか。男子バスケ部キャプテンの鶴田?いや、あいつが女子バスケ部員と話しているところなんて見たことがない。だとすると、いったい・・・。)
いっそのこと英に直接聞いてみようかと思ったが、和人はその考えを振り払った。
中学校最後にして最大の試合をやっている最中だ。
月野と英のことは気になったが、これから30分間はそのことを忘れなければならない。
試合が終わってからそれとなく英に聞くことにしよう。

「さあ、泣いても笑ってもあと30分だ。お前たちの力をすべて出し切れ。そうすれば必ず勝てる。いいか、1点リードしてはいるが決して守りに入るなよ。逆にもう1点取れば相手の気力が落ちる。追加点を狙っていけ!」
「はい。」
楠田の指示に全員が呼応した。
「松永は残念だが交代だ。代わりに山中がはいる。山中、ガンガン動き回れ。そしてチャンスだと思ったらシュートを狙っていけ。」
「はい。」
山中は松永と同じ2年生で、試合経験は少なかった。
だが、身長が低くすばしっこい動きをする。
疲れが見える英のパートナーにうってつけだった。
「よし、行ってこい。」
「はい!」
選手がコートに向かって駈け出した。

「監督の言う通りだ。清水、もう一点取りにいくぞ。」
「そうだな、誰かさんの体力はあと少ししか持たないもんな。点を取るなら今しかない。」
センターサークルで清水が英を見てニヤッと笑った。
ピーッ!
後半開始のホイッスルが鳴った。

清水からボールを受けた英が和人へ戻す。
和人から山中へ、山中からもう一度英にボールが渡った。
しかし英は3人からすぐに囲まれた。
やはり敵は英を徹底的にマークしてくるようだ。
英が必死に抜け出そうとするが執拗なマークはそれをゆるさない。
3秒、5秒、英はボールを奪われまいと必死にフェイントやボディーバランスでこらえている。
と、その時、囲まれていたはずの英がボールとともに飛び出してきた。
相手が一人遮ったが、巧みなステップで抜きさる。
そしてまた相手の二人が英に迫って来ようかという時に、英はゴール前にふわっとパスを出した。
すると予測していたかのように清水がディフェンスの裏へ飛び出す。
ボレーシュート。
惜しくもクロスバーに当たりボールが跳ね返る。

だがそのボールは、運よく英の方へ向かった。
英が胸でトラップ。
ボールが地面に落ちる前にシュート。

相手のキーパーは一歩も動けずゴール左隅に飛び込んだボールを眼で追うのが精いっぱいだった。
強烈なシュート。
英が応援している緑丘中の生徒へ向って高々と手を突き上げた。
湧き上がる大歓声。
味方の選手たちが英の方へ駆け寄っていく。

だが歓喜の渦の中で、和人の表情だけは曇っていた。
和人には英が誰を見ているかがわかっていたからだ。
英の視線の先、そこには月野の姿があった。
ぎっしりと埋め尽くした生徒たちの中で、月野も英に向って何か叫びながら両手を振っていた。
和人は、― 手を腰に当て、天を仰いだ。