試合後の月曜日の朝、緑丘中はざわついていた。
バスケット男子は惜しくも敗れたものの、卓球男女と和人たちサッカー部が決勝にコマを進めたのだ。
現時点での成績は1位奥山中68点、2位緑丘中64点、3位浜里中59点、4位川原中57点と続き5位以下は50点を下回る。
卓球女子とサッカー部の相手は奥山中で、卓球男子の相手は浜里中だ。
つまり緑丘中の残った3チームが優勝すれば、総合優勝の可能性は極めて高いと言える。

昼休み時間に和人と英が話をしていると、バスケット男子のキャプテン鶴田が二人に話しかけてきた。
「よう、橘に園山、プレッシャーに押しつぶされそうになってるんじゃないか?お前たちサッカー部には優勝してもらわないと、何しろ20年ぶりの総合優勝がかかってるんだからな。」
「これはこれは、誰かと思ったら、残り5分でファイブファールをして相手に逆転を許したバスケット部の鶴田君じゃありませんか。」
英がからかうと、和人が吹き出した。
「な、なんでそんなことまで知ってるんだ?というよりあれはミスジャッジだからな。本当なら俺たちが決勝に進出したはずなんだ。」
実直な鶴田が少しむきになって言った。
「何がプレッシャーに押しつぶされそうだよ、お前たちバスケ部が勝ってりゃ俺たちの負担はぐっと減ってたのにさ。責任とれよな。」
今度は和人が攻撃した。
「ぐっ…、それを言われると…、申し訳ない。」
素直に謝る鶴田をはさんで、和人たちは大笑いした。
「決勝戦は応援に行くから頑張れよ。」
手をあげて去っていこうとする鶴田に英がダメを押した。
「まだわかってないな。行かせてもらいます、だろ?」
鶴田が振り向き、英にあっかんべーをした。

その日の練習は休みだった。
サッカー部の部室では、和人と英、それに前川徹也がいた。
「暇だな~、そうだボウリングでもやらないか?」
「おっ、それもいいかもね。」
徹也の提案に英が乗ったが、和人はにべもなく断った。
「クロベエを散歩に連れて行かなきゃならないから。」
「あのバカ犬か。一日くらい散歩しなくても大丈夫だろ?鉄也と二人きりでボウリングなんて考えられねえよ。」
「確かにホモかと疑われるぞ。」
「悪いな、散歩のほかにも飯炊いたり掃除したりしなくちゃならないから。」
「それを言われると何も言えないじゃないか。」
英が和人を睨む。
「父子家庭はつらいんだよ。じゃ、そういうことで。」
和人は少しさみしそうに笑って部室を出た。

「英、いっそのことクラスの女でも誘うか?」
「クラスの女って誰をだよ?」
「そうだなあ、江本と木村なんてどうだ?あの二人いつも一緒にいるじゃないか。」
「木村はいいけど、江本はちょっとな。それより徹也、あそこを歩いている二人はどうだ?」
徹也は英が指さすほうに目をやった。
「おいおい、バスケ部の2年じゃないか。しかも部活の最中だろ。」
「いや、どうも終わったみたいだぞ。というより部員が集まらなくて練習を休みにしたってところだな。」
「じゃあ英が声かけてみろよ。」
「いいけど、成功したら俺右側の子と組むぞ。」
「待て、あの子は月野さんじゃないか、2年で一番人気がある子だぞ。」
「へえ、詳しいな。でも付き合ってるやついないんだろ?当たって砕けろだ!」
言うが早いか英は二人の方へ近づき、声をかけた。
「ほんとに行っちゃったよ、今日の英はやけに積極的だな。」
徹也はちょっと首をかしげながら、3人の方へ寄って行った。