和人はその次の週から学校へ行った。
1時間目が終わり休み時間になると、3年生のサッカー部員が和人のもとにやってきた。
「驚くなよサッカー部は1回戦の葉山中を3対2で破ったんだぜ!」
「それだけじゃねえぞ、昨日の2回戦は守屋中に4対1で勝ったんだ。」
「次の試合は高浜中だ。あそこも攻めのチームだけどオフサイドトラップが使えればたぶん楽勝だな。」
皆が矢継ぎ早に話した後、英が口を開いた。
「待ってたぞ、和人。」
「サンキュー、でも1回戦で負けたとばかり思っていたよ、英があの時『ごめん』て言ったから。」
「ああ・・・、あの『ごめん』は何ていうか・・・その、別の『ごめん』だ。」
「何言ってるんだよ、とにかく和人、今日から練習に出れるんだろ?」
清水が割って入っると、英がほっとした顔をした。
「うん、そのつもりだけど、ちょっと運動不足だからきついだろうな。」
「なあに、もともと和人の運動量はチーム1なんだから、運動不足でちょうどみんなと同レベルの動きってことさ。」
「そうそう、俺たちの運動量なんて、和人の7割くらいしかないんだから。」
「そう考えれば和人はバケモンだな、今日だけは普通の人間でいてくれよ。」
皆の言葉は優しかった。
(自分にはこんなに優しい仲間がいる。)
和人はとても幸せな気持ちになった。
「じゃあな和人、部活であおうぜ。」
清水が言った。
「ああ、後で。」
皆を見送りながら和人がほほ笑んだ。

放課後の部活では、和人は久しぶりに気持ちのいい汗をかいた。
「なあ英、もうちょっと遊ばないか。」
練習後に和人が言うと、
「へえ、めずらしいな、和人から誘うなんて。もちろんつきあうぜ。」
辺りは少し暗くなって来ていたが、二人は30分ほどリフティングや1対1をして楽しんだ。

帰り道で和人が言った。
「お父さんがさ、とっても落ち込んでるんだ。本人はそのことを俺に悟られまいと妙に明るくふるまうんだけど、それがまた見てられなくってさ。」
「そうだろうな、とっても仲良しだったからな和人の父さんと母さん。ところで飯はどうしてるんだ?」
「朝はトースト、夜はお父さんが料理の本買ったりして頑張って作ってるけど、失敗ばっかりだな。昼の給食がとってもありがたいよ。」
「そんな事だろうと思った。うちの母さんがさ、今度の土曜日に和人を連れて来いって言うんだ。昼飯をごちそうするってよ。」
「サンキュー、そうだなお言葉に甘えて久しぶりにお前んちに行くとするか。」
「そうしろよ。なんなら晩飯まで食っていくか?」
「いいねえ。そのまま泊まり込んだりしてな。」
二人は顔を見合せて笑った。
「でも・・・。」
急に和人が真顔になって切りだした。
「本当にサッカー部が勝ち抜いててくれて助かったよ。今の俺にサッカーがなかったらほとんど廃人状態だったかもしれない。」
「そうさ、みんな和人が戻ってくるまで負けないって、そりゃあ気合が入りまくってたんだから。」
「・・・決めたよ。」
「何を?」
「俺、高校に行ってもサッカー部に入る。」
「ふうん、俺と同じだな。で、どこの高校に行くんだ?やっぱり修学館か?」
修学館高校は、電車で20分の場所にある県内でも有数の進学校だ。
「前はそう思っていたけど、うちのお父さんどうやら来年転勤らしいんだ。どこの学校に赴任するかわからないから、家の近くの高校を選ぶってことはできないしな。」
「だから?」
「サッカー部が強くって寮があってそこそこ頭のいい学校にしようと思っている。」
「まさか・・・」
「そう西城高校だ。徹也も受験するって言ってたし、英も行くんだろ?」
「そのつもりだけど・・・、俺の場合はどんなに良くても合格ラインぎりぎりのはずだから、ライバルは一人でも少ない方が・・・。」
「その分勉強教えてやるから、そんな冷たいこと言うなよ。」
和人が英の背中を叩いて笑うと、
「ちぇっ、仕方ないな。でも俺がもし西城を落ちたら責任とってもらうからな。」
英も和人を睨んで笑い返した。