遠回りして帰ろ。あーあ、全君のばかやろう。
足早にその場を去ろうとしたあたしの背中に、
「ちょっとこのチビ送ってくるから車で待っとけよ美奈子」
「…はーい。気を付けてー」
「さんきゅー」
追い掛けてくる全君の気配がする。
その言葉を聞いた瞬間にあたしの存在を忘れてなかったらしいことが嬉しくてにやけ顏のだらしない顔になってしまった。
「…後ろ姿見ただけでニヤけてんのが伝わってくんだけど」
あーちくしょお。ゲンキンなあたし。
「遠回りして送ってくれる?」
「やめてくれ」
怪訝な表情も素敵な全君。近道だけど大人しくあたしの家の方向まで歩いてくれる。全君の家の玄関を見ると美奈子さんの姿はなかった。多分車のキーを取りに行ったんだろうなぁ。
あと200メートルぐらいの道のりが少し寂しい。

