30差の片想い







 叶恋は俺を微笑みながらも真っ直ぐ見つめた。



 確かに、俺の周りにはいつも誰かがいてくれた。


 そんなの気にもしていなかったけど。

 それってすごいことなのかな。



「最後まで守ってもらえなくても、守ろうとしてくれた想いだけで人はすごい救われるものだよ。……まあ、透はそれでも嫌なんだろうけど」


 叶恋の言葉が、大きく胸に響く。



 想いだけでも、その人は救われるのか?

 それで、救うというのか?



 ……そうだよな。


 俺が、自分の気持ちを言わないから。


 だから、家族は壊れないんだよな。

 ……母と父は、笑ってられるんだよな。



「……あのね、あたしもセンセイに恋してから何度も後悔したの。好きになってしまった自分を責めたりすることもあった。嫌にもなる。でも……自分を嫌いになっちゃいけないと思う」


 叶恋は少し切なそうに顔を歪めた。



「好きって気持ちは、時に残酷だけど素敵な感情だと思うの。そんな感情を持っている自分を、嫌いになっちゃダメだよ。特に透は、優しいし素敵な人。だから、自分を好きにならなくちゃっ!……良い所も悪い所も、好きになろう?」



 叶恋は何度、涙を流したんだろう。

 何度、苦しんだんだろう。


 そんな風に思えるようになるまでに、何度も自分を嫌いになったんだよな?

 だからこそ言える言葉……なんだろう?


「……叶恋」


「ん?」


 叶恋が俺を見て、優しく微笑んだ。


 初めて……かもしれない。

 誰かの笑顔を見て、涙が出そうなほど綺麗だと思ったのは。