30差の片想い







「あら、そう言うあなたもビール飲み過ぎじゃない?食べる前から飲んで」


「いいじゃないか、仕事終わりのビールは格別だぁ~♪」


「まあっ、もう酔ってる」


 今日も、仲良さそうな二人の会話を聞きながら箸を進める。

 チラッと視線を送れば、くっついちゃってるし。



「はぁ……」

 また、ため息。


 よくもまあ、子供の目の前でこんなことやれるよ。

 なんて呆れる俺だが、最近はちょっと様子が可笑しい。



 前まではイチャつく二人を見て呆れるのと同時に、胸を痛めていた。

 悲しくて、切なくて、やり切れない気持ちでいっぱいだったのに。


 今は、どうだろう。

 すっぽりとそこだけくり抜かれたように、そんな悲しい気持ちを抱かない。

 残っている、〝呆れ〟だけが唯一感じる感情だ。



 それは、つい最近からだった。


 母さんを見つめてみても、特に何も感じなくなった。

 父さんに対する反抗も、一切と言っていいほどなくなった。


 そう、二人に対して特に何も思わなくなってしまったのだ。


 ただもしかしたら、叶恋のことばかり考えているせいなのかもしれない。

 そこまで頭が回らないのかもな。




「そういえば、叶恋ちゃんだっけ?とはどうなんだ、透」


「へっ?」


「へっ?じゃないだろう。今、どんな感じだ?」


 酔っているからか、いつもより上機嫌な父さんがそうニヤつきながら聞いてきた。