「なんでって……」


 案の定、叶恋は戸惑った声を出して、目を逸らした。



「……ごめん、酷いこと言ったよね。透がムカつく気持ちも分かる。でもっ……」


 叶恋はまるで縋るように俺を再び見つめた。

 俺の心が、その瞳に痛む。


 でも、そんな心を凍りつかせ俺は、

「でも、なに?許せって言いたいの?マジで意味分かんねぇ」

 って言って、すぐ叶恋から目を逸らした。


 これ以上見つめられたら、俺がどうにかなってしまいそうだったからだ。



「……そう、だよね」

 叶恋は、震えた声でそう言った。




 ごめんな、叶恋。

 本当は傷つけたくなんてないんだ。


 でも、これからきっとお前は幸せになれるよ。

 自分の恋、叶えろよ。



 本当は言いたいことが山ほどある。


 まずは、ごめん。

 次は、ありがとう。

 それから、幸せに。

 でも、それは言えないから。



 代わりにこの言葉に全ての想いを込めるよ。

「……じゃあな」


 俺は踵を返し、池の掃除なんて無視して元来た道を帰って行った。



 俺、叶恋と出会えてよかった。

 叶恋はどうですか?


 幸せになってくれると嬉しい。

 そうしたら俺のこの行為も想いも、報われると思うんだ。


 大切なあの日々に、叶恋に、さようなら。



 少し視界が滲んだのは、きっと気のせいだろう・・・