30差の片想い






 別に、悲しくなんてない。

 寂しくも、ない。


 良かったじゃないか。


 叶恋の恋は、実るんだ。

 叶恋は、幸せになれるんだ。


 ああ、そっかそっか。

 叶恋は名前通り、<恋を叶える>のかもしれないな。


 これで、安心できるな。

 俺、不安にならなくても済む……。


「………ま、別に、俺はどうでもいいけど。ああ、それと、さっき言った言葉、そっくりそのまま返しますね」


 俺はそう言って、泉田を真っ直ぐ見つめた。


「愛してるなら、泣かせんなよ」

 そして、軽く微笑んだ。


 何故か痛む胸は、必死に抑えた。



「いや、ちがっ……まあ、それだけだ!気を付けて帰れよっ!!」


 泉田はそう言うと、足早に去って行った。






「……ったく、素直じゃないな」


 泉田には、叶恋のことが好きなら、奥さんと別れて欲しいって思う。

 中途半端な気持ちで付き合ったりして叶恋を傷つけたら、許さない。


 ああ、それも言っておけば良かったかな?




 俺はそれから、帰路に着いた。

 家にはすぐ着くけど、今日は何故だか家までの距離が長く感じた。