「はいっ!」
あたしは椅子から立ち上がり、鞄を手にした。
同時に透も椅子から立ち上がる。
「じゃ、行こうか」
「うん。それじゃあ、また」
そう言うと、あたし達は玄関へ向かおうとする。
「あ、待って。叶恋ちゃん」
だけど、そう透のお母さんに呼び止められた。
「はい?」
あたしはすぐに振り返る。
透のお母さんは少し言いにくそうに目を泳がせたけど、やがてあたしの瞳を捉えて、
「今日はありがとう。透が友達連れて来るのって本当に珍しいの。連れて来たわけじゃなくても、女の子と話してるのなんて初めて見たわ。私ね、本当に嬉しかった」
透のお母さんはそう、本当に嬉しそうに微笑む。
「私は、例え友達だったとしても、透が連れて来た女の子とこうやって話したりするのが夢だったから……本当にありがとうね」
「いえ……そんな」
「私、さっきも言った通り女の子が欲しかったし……まあ、透も実の子じゃないけど。……あ、ごめんなさい。ついっ……」
「いや、透からもう聞いてるんで、大丈夫ですよ」
あたしがそう言うと、透のお母さんはほっとしたような表情を見せた。
そして、
「……透は無愛想で冷たく思えるけど、本当はとっても優しくて繊細な子なの。嫌なこともあると思うけど、これからもあの子…透をよろしくね」
透への思いを語った透のお母さんの言葉は、とても温かくて優しかった。


