30差の片想い






 止めてあげてって、あたしの心が叫んだ。

 苦しいよって、透の心は叫んでいる。


 その優しい瞳が、きっと透を苦しめている。

 何も知らない無邪気な笑顔は、あたし達には痛いの。



 透の瞳から感じ取った、透の想い。

 それは、涙が出るほど悲しいものだって、あたしは思う。


 お母さんといる時の透と、家族でいる時の透は全く違う。


 お母さんといる時の透は、切なげな表情だけどまだ笑顔がある。

 それはきっと、〝好き〟だからだろう。


 だけど、家族三人でいる時の透は、まるで自分を消しているようだ。

 言葉の一言一言が、心がないみたいに冷たい。

 きっと、少しでも気を抜いたら想いが溢れ出そうなんだろうな。

 それくらい、辛くて苦しい想いなんだろうな。



 透が傷ついている姿、初めて見たかもしれない。


 ー-守ってあげたい。

 ー-助けてあげたい。



 そう思ったあたしが口にした言葉。

「ね、ねえ、透!そろそろ帰ろうと思ってるんだけど、送ってってくれないかな?」


「え?……ああ、うん」

 そう言った透の優しい笑顔に、少しほっとする。


 そんなあたし達の会話を聞いた透のお母さんは、

「あら?もう帰るの?」


「はい、親が心配するので」


「そうね、気を付けてね。」


「はい、ありがとうございます。チョコクッキー、美味しかったです」


 そう言ってあたしが笑った時、

「また来てね」

 ソファに座っている透のお父さんが、こちらを振り向いてそう言った。