彼氏ができた。

同じ学校ではない。況してや同じ県にすら住んでいない。
顔も見たことはない。
声を聞いたこともない。

そんな人と付き合って大丈夫なのか、と他校に行った親友に言われた。
騙されても知らない。助けないとも言われた。

それでも、恋というものはしてしまったらもう手遅れなモノである。

[じゃ、行ってきます!]
[行ってらっしゃい]

時間が近づいてきて、渋々彼、白崎翔也とのLINEを切る。
彼はバスと電車を使って学校に行っているそうだ。
なんでも、他県とか。
黒いローファーを履きながら上機嫌に鼻歌を歌う。
ローファーの踵に指を入れて、踵をローファーの中に入れる。

黒いボブの髪がサラサラと下に垂れた。
高校に入ったときはセミロングでもっと長かったが、つい最近、邪魔に思えて切ったのだ。
綺麗に手入れされた髪を一房摘み、少し考える。
そして「いってきまーす」と扉を開けながら思った。

髪、伸ばそう。