「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っもうっ!!」


琥珀色の輝きを放つ太陽の下。
少女、柳白翠(りゅう はくすい)はおよそ年頃の乙女とは思えぬ叫び声を上げた。


長く艶やかな黒髪は、その美しさに気を配ることもされず、無造作に束ねられている。

彼女が暮らすここ、華国では珍しい大きな瑠璃色の瞳には苛立ちが浮かんでいる。

見るからに上等な巫女装束は、悲しきかな、袖ががばりとめくられ、たすき掛けされているせいで元々の上品さは跡形もない。

目鼻立ちのはっきりした、色白の美少女であるというのに、叫び声といい服装といい、いろいろな要素がそれを台無しにしていた。



「ど〜〜〜〜〜〜して私が今更野蛮な野郎共の巣窟である都に戻らなきゃなんないのよっ!!!」

ひゅん!

白翠の絶叫とともに放たれた矢は的の中央へ、実に的確につきささる。

「……白翠ちゃん、みやこ、きらい?」

側仕えの少年、李静流(り せいるう)は二本目の矢を差し出しながら可愛らしく小首を傾げた。

「大っ嫌いよ!だって、むさっ苦しい、私の大嫌いな男がたくさんいるんだもの!!」

ひゅん、ひゅん!!

「う……。白翠ちゃん、ぼくのことも、きらい?おとこのこだから……。」

「違うわよ。静流はいいの。私が嫌いなのは、政治だなんだってガツガツした男の子とよ!」

ひゅん、ひゅん、ひゅん!

「だいたい、今までこんな田舎の地に媛御子の座だけ与えて……しかも自分の道具として!……それがどうして今になって都に呼び戻すわけっ!?あんのクソ親父っ!!」

ひゅん、ひゅん、バキッ!

円形に射られた矢で的の中央がきれいに
くり抜きされる。

「ふん。まぁいいわ。」

白翠は割れた的を満足げに見下ろし、あざ笑うような笑みを浮かべた。

「あのクソ親父……丞相が何を考えてるかは知らないけど、さっさと要件終わらせて、ついでに今までの憂さ晴らしに大金巻き上げて鈴祥に戻ってくるんだから!!」

絶対にっ!!

白翠は高らかと拳を天に突き上げて決意を固めるのだった。