学校の昇降口までノンストップで走った私は思い切り息を切らして咳き込んでいた。
それなのに、同じ距離を同じ速さで走った優子は、何食わぬ顔でカバンから手紙を一通取り出した。
「こんなこともあろうかと、昨日、呼び出し用の手紙買いてたんだぁ!……あれ、凛?どうしたの?」
「い、いやいや……なんで、優子は、普通なの……?」
「毎晩走ってるからね!美容のために!」
ウインクしながらニコッと笑う姿は、アイドルも顔負けだと思う。
それに、この用意の周到さも、勇気もすごい。
全部、私には真似ができない、と素直に感心してしまう。
優子は何のためらいもなく、周防先輩の靴箱に手紙を入れると、小さくガッツポーズをして、もう一度私に笑顔を投げかけた。
「というわけで、凛!私、SHR(朝のホームルーム)の後の休み時間、いないから!」
「その時間に告白?昼休みとか放課後とかの方が、ゆっくりできない?」
「ゆっくりしてたら、緊張しちゃうし、短い時間の方が言いたいこと、ギュッと詰めて話せるもん!それに、善は急げ、だし!」
強いなぁと、ぼんやり思った。
恋に前向きな姿勢が、すごく可愛いし、かっこいい。
「……上手くいくといいね」
「うん!」
私には、ここまで積極的に恋愛できない。
昔から、こんなに可愛い女の子の隣にいたら、尚更だった。
少なくとも、この時は、私が恋愛する、なんてファンタジーめいたことは、少しも考えていなかった。
