【短】50-50 フィフティ・フィフティ



「あそこ、行ってみる?」


松本さんが、フロントガラスの遥か先を顎で指す。


そこには、小高い丘に建つ白い箱のような建物があった。

外壁を大量のツタに覆われたそれは、俗にいう……ラブホ。



「ああ、あれ?昔からあるよね」


「入ったことある?」


「ないよー。ちょっと不気味だもん。松本さんは?」


「俺もないよ。俺は学生時代から、家でやる派」


「家でやる派って…ウケるぅ」


「昔は親の目盗んで彼女連れ込んでたけど、今は1人暮らしだから、自由だね。桜ちゃんは?」


「んー、私は寮だから。彼のアパートか、お金があるときはホテルかな…」



そんな会話をしている間に、紺のセダンは、まるで吸い寄せられるように、そこへそこへと近づいていく。


大気圏に突入した巨大隕石が、地球の引力に抗えないように。


あっという間に、ゴム製のビラビラをくぐって、中に滑り込んだ。


そこは、車からドアトウドアですぐに部屋の中に入ることが出来るタイプのホテルだった。



「…イヤだった…かな?イヤなら出るよ」


松本さんが縋るような目をする。
迷子の子犬みたいな。


……かわいい。