「おはようございます、架代さん」
「おはよう。今朝も女好きに精が出るわね」
「人懐こいって言ってくださいよー」
先ほどの光景に対し私がイラついていることに気付いているのだろう。日向はへらへらと笑ってごまかしながら、エレベーターのボタンを押す。
……って私、どうして日向が他の人にくっついているのを見る度にこうもイラついているの?
いや、まぁ、社内の風紀を乱していることが腹立たしいだけで、個人的な感情なんかは一切ない。ない。
「もう架代さんってば朝からそんな怒ったりして……あ、もしかしてヤキモチですか?」
「はぁ?そんなわけないでしょ」
「ヤキモチなんて可愛いですねぇ。してほしいならしてあげるのに」
目の前のエレベーターのドアが開いた瞬間、浮かべられた笑みとともに近付く顔。そして、薄い唇がちゅっと頬に触れた。
い、今……キスした?頬に、キス……。
触れた感触に驚き、実感した瞬間、一気に熱くなる顔。みるみるうちに耳まで赤くなっているのだろう自分の顔が、見なくても想像出来る。
「ブフッ!」
そんな私を見て、日向は勢いよく噴き出す。
「なっ、なによ!笑ったりして……」
「いやぁ、耳まで真っ赤になるとは思わなくて……意外とウブですねぇ」
「なっ!?」
笑われたことにより余計赤くなる顔を見て、更におかしそうに日向は笑う。
ウブって、そりゃあ頬とはいえいきなりキスされれば、私だって驚くし照れるわけで……。
「っ〜……この変態!!」
「ギャン!」
手にしていたショルダーバッグでその顔を叩くと、先にエレベーターに乗り込み、ボタンを連打しドアを閉めた。
なんなのよあいつは!ちょっと見直したと思ったらまたチャラチャラ……平気で人にキス出来るとか、ありえない!
ありえない、最低。そう思いながら左頬にその唇の感触を思い出せば、上がった熱は引いてくれない。
落ち着け、落ち着け……あ、途中四階に寄って頼んでおいた書類を取りに行こう。そう思い私は一度四階のフロアへと降りる。



