愛してもいいですか




今日の会議は、いつもの会議とは少し違う。というのも、参加する人が全員新入社員や平社員……といった、普段あまり接点のない役職のない社員たちだからだ。





「でも、どうして平社員たちなんですか?」



午前九時半、社長室を出て廊下を歩きながら、日向は書類の束を手に問いかける。



「様々な意見を聞くためよ。上層部の人間の意見も大事だけど、日頃頑張って働いているのは役職のない人だって同じだもの」

「つまり、たまには平社員の声も聞きましょう、と」

「そう。良いことも悪いことも、上の人間じゃ分からないことがきっとあるはずだから」



どうしても私の立場では、把握出来ないところもある。その為にそれぞれの部署にも一人秘書もつけているけれど、それでもやはり直接声を聞く必要もあると思う。



……というのも、私が社長の娘という立場を隠して社員として働いていた頃、先輩にいびられていたことがある。

無理な量の仕事を押しつけられ、毎日残業。自分がした仕事を先輩にとられ、『時間をかけてこれだけしか仕事の出来ない奴』と呼ばれた。

当時周りは見て見ぬふりで、上司も気付いてくれない。結果それは私がその部署にいる限り続いた。



……まぁ、私が社長に就いた時の、その先輩の真っ青な顔が見ものだったけど。



でも、私は自分はいずれ社長になるからと耐えきれた。だけど、他の社員ではこんなものがずっと続くのかと耐えきれないと思う。

だからこそ余計に、いろんな声を聞きたいと願うんだ。



「有意義な会議になるといいですね」

「えぇ」



隣で笑った日向に、私は小さく頷いた。