「じゃあ、私……日向のこと、縛ってない……?仕事だから優しくするんじゃないの……?」
「バカですねぇ、俺は仕事でもいやなことはしませんよ。だからこそ、あの日も架代さんの命令を断ったんです」
その涙をそっと拭う優しい指先に、また涙が出てきてしまう。
「そりゃあ、正直キスされてちょっとドキドキもしましたけど……でも、気持ちがなくちゃ意味ないですから」
見つめる瞳に、涙でぐちゃぐちゃな私の顔が映る。けれどそれすらも愛しそうに見つめて、甘く囁く声。
やっぱり、思った通り。日向は付き合ってもいない相手を抱くような人じゃなかった。
けど、好きだからこそ抱けない気持ちもあるのだと、知った。
社長と秘書の関係のままでは、触れられないものがあるから。
「だから、架代さん……」
そのとき私は、言いかけた日向の言葉を遮るようにその頬をぎゅっと両手でつねる。
「はっ、はにふんれふは!」
「もう、なんなのよあんたは!」
「へ?」
本当、なんなの。あんたって男は。
「チャラチャラしてるし、へらへら笑ってばっかりいるし!」
「す、すみません……」
軽い男。いつだって見透かしたように笑って、私のことをバカにしたり、人前で笑ったり、嫌な現実も平気で突きつけてくる。
「無駄に鋭いし、私のこと全部分かってるふうだしっ……」
「えぇ、分かってますよ。それだけあなたを見てきましたから」
抱き締める腕は優しくて、ほしい言葉を分かっている。誰より私を知っている。眩しくて、キラキラとした人。
「……そんな日向が、好きよ」
日向が笑うと、嬉しい。日向となら、思いや苦労も共有したい。悲しい気持ちだって、分け合いたい。
好き、大好きよ。



