「気にされているように見えたので」

「べ……別に、あんな男のことなんて全く気にしていないけど」

「そうでしたか。失礼しました」



私の表情から読み取ったのか、言い当ててみせた神永に強がって嘘をつく。その嘘をきっと信じてはいないのだろうけれど。



「……なんでも昨日、日向が営業部の方で明日の会議に使うデータを消してしまったそうですよ」

「えぇ!?大丈夫なの!?」

「まぁ本人いわく、今日の夜まで必死にやれば修正はきくでしょうとのことで」



だから、『日向なら来ない』……か。

でもあの日向が仕事でミスをするなんて……しかも普段ならやらないような、そんなミス。

どうしたんだろう。具合でも悪かった?それとも……西さんとなにかあった?ついあれこれ考えてしまう。



「気になりますか?」

「えっ、いや、あの……」

「まぁ、気になると言われましても今日のお見合いをすっぽかす訳にはいかないので、どうも出来はしないのですが」



つい難しい顔で考え込んでいた私に、神永はふっと笑うと髪のセットを終えたらしく私の頭から手を離す。



「……ですが、私自身の意見を述べても構わないでしょうか」

「神永の、意見……?」



神永は静かな人だから、仕事以外、自分の意見や意思を伝えることはあまりなかった。

だけど、そんな彼が今私に伝えようとしている言葉。きっとそれは、嘘偽りのない率直な言葉。